「使っていない3階建ての戸建を民泊で活用したい」
「3階建ての場合は民泊を始めるのに特有の要件はあるのか?」
「自宅の3階だけ民泊運用する際の注意点が知りたい」
近年、3階建て住宅を民泊に利用したいというニーズが高まっています。しかし民泊を始めるにあたって、法的要件や運営上の注意点が多数存在するため、不安を感じる方は多いのではないでしょうか。
この記事では、3階建て住宅で民泊を始める手続きと注意点を解説します。特にこれから始める方に向けてわかりやすく解説しているので、ぜひ最後までお読みください。
3階建ての戸建を民泊運用するニーズが増えている3つの理由
これまで3階建て戸建てで民泊をするには、法律の要件が厳しく事業を断念する方が多くいました。しかし民泊に関係する法改正があり、3階建ての戸建てでも事業を始めやすい制度に変更されました。以下に、始めやすい制度の理由をあげます。
- 耐火建築物への改修が不要になった
- 用途変更の対象面積が緩和され建築確認申請が不要となるケースが増えた
- 条件を満たせば3階建てでも特小自火報により消防設備のコストを削減できる
ここでは、3階建ての戸建てで民泊するニーズが増えている上記の3つの理由を解説します。
1. 耐火建築物への改修が不要になった
令和元年6月に建築基準法が改正され、準耐火建築物でも旅館などの用途で使用可能になっています。これまでの規制では、3階建ての戸建てで民泊事業を行うには建物が耐火建築物でなければいけませんでした。
耐火建築物とは、柱や壁などの主要構造物を耐火性能のある材質で建築した建物です。防火地域でないエリアでは3階建ての住宅は準耐火建築物が多く、柱やはりなどの防火改修工事が伴います。費用の負担が大きすぎるため、事業を断念するケースが少なくありませんでした。
耐火建築物への改修が不要になったことで、3階建ての戸建てを民泊運用する際の大きな費用負担がなくなり、多くの方が参入しやすくなっています。
2. 用途変更の対象面積が緩和され建築確認申請が不要となるケースが増えた
用途変更に伴う建築確認申請が必要とされる面積は、以前の100㎡から200㎡へと緩和されました。国交省の資料によると100㎡未満では対象が3割だったのに対して、新しい基準によって戸建住宅の約9割が緩和の対象となります。
建築基準法の改正趣旨は「空き家の活用に当たって、他用途への転用による非住宅としての利用を推進する」とあります。用途変更の対象面積の緩和は、空き家を活用して民泊事業への参入を検討している方への支援策です。
建築確認申請が不要になることで、事業者は設計図書作成や確認検査の費用などのコストを削減できます。
参照元:国土交通省「建築基準法の一部を改正する法律案 改正概要」
3. 条件を満たせば3階建てでも特小自火報により消防設備のコストを削減できる
3階建て住宅を民泊で使用する場合は「特定一階段等防火対象物」に該当し、自動火災報知器(自火報)の設置が義務付けられています。特定一階段等防火対象物とは、階段が屋内に1つしかない建物で地下や3階以上の階を宿泊施設等で使用する場合に該当するものです。
以下の要件を満たすことで、自火報ではなく特定小規模施設用自動火災報知設備(特小自火報)の設置が認められます。
- 建物の延べ床面積が300㎡未満
- 宿泊室の床面積の合計が50㎡以下
- 全ての宿泊室の出入口扉に施錠装置が設けられていないこと
- 全ての宿泊室の宿泊者を1つの契約により宿泊させるものであること
- 階段部分には、煙探知器を垂直距離7.5m以下ごとに設置すること
特小自火報の設置は通常の自火報よりも簡単で、自分で取付可能です。以下の表に記載した特徴のとおり、簡易な工事で設置できコストを大幅に削減できます。
設置する消防設備 | 特徴 |
自動火災報知設備(自火報) | 受信機や感知器などの機器どおしを接続する 有線での設置が原則であり、壁の内部に配線工事が必要 |
特定小規模施設用自動火災報知設備(特小自火報) | 無線式の感知器のみで構成可能 配線が不要で誰でも設置可能 |
3階建ての住宅で民泊を検討している方は、特小自火報の設置要件を満たしているかを確認してみましょう。
3階建てを民泊する際に注意したい竪穴区画について4つのポイントで解説
住宅を民泊営業する際、2階建てと3階建てでは法的な要件が異なります。中でも竪穴区画については、特に理解しなくてはいけない内容です。主に、以下に示す4つのポイントがあります。
- 『竪穴区画』とは客室などと区画を別にした吹き抜けや階段スペース
- 耐火建築物でも竪穴区画が必要
- 竪穴区画を設置することで準耐火構造の3階建てでも民泊が可能となる
- 3階に居室がなければ竪穴区画は免除される
ここでは、3階建て住宅での民泊運営における竪穴区画の役割と重要性について、わかりやすく解説していきます。
1. 『竪穴区画』とは客室などと区画を別にした吹き抜けや階段スペース
「竪穴区画」とは、建築基準法施行令第112条の第11項に規定される防火区画の1つで、客室などと区画を別にした「吹き抜けや階段スペース」などのことです。竪穴区画によって火災時に炎や煙が階をまたいで拡散する速度を遅らせ、建物内の人々が避難する時間を稼いで被害を最小限に抑えます。竪穴区画には以下の3つの役割があります。
- 遮炎効果
- 遮煙効果
- 避難や救助、消火活動の動線
竪穴区画を設置するには、間仕切り壁や燃えにくい材料で作られた扉が必要です。3階建でも一般住宅には、竪穴区画の設置義務はありません。住宅から民泊へ用途を変更する際は、現状で建物に竪穴区画が設置されているかを専門家に判断してもらう必要があります。
2. 耐火建築物でも竪穴区画が必要
建築基準法では、竪穴区画が必要な建築物として「主要構造部を準耐火構造とした建築物」とあります。耐火建築物なら不要ということではなく、耐火性能が高い建物でもそもそも竪穴区画がなければ建築できません。この例外として一般住宅の緩和措置があり、住宅で民泊営業する場合の規定は以下のとおりです。
- 原則として耐火建築物では竪穴区画が必要
- 例外として住宅は緩和措置があり竪穴区画が不要
- 住宅を用途変更して民泊をするのであれば竪穴区画が必要
3階建ての住宅は、耐火建築物であっても緩和措置により延べ面積が200㎡以下であれば竪穴区画を設置していないケースがあります。このケースを想定して、耐火建築物の3階建て住宅で民泊をする場合は竪穴区画の有無を確認してみましょう。
3. 竪穴区画を設置することで準耐火構造の3階建てでも民泊が可能となる
3階建ての住宅でも、竪穴区画を設置することで民泊を運営できる要件を満たせます。耐火建築物であれば3階建てで民泊が可能ですが、住宅の場合は準耐火建築物である可能性が高いです。
建築基準法の改正により、準耐火建築物でも竪穴区画を設置することで民泊事業が可能となりました。準耐火建築物で民泊営業する場合は、壁や防火扉などで部屋と竪穴部分を区画する工事が必要です。
建築基準法施行令第112条第19項により、竪穴区画の扉は以下のいずれかを満たさなくてはいけません。
- 常時閉鎖している
- 火災による煙や温度の上昇で自動的に閉鎖するもの
扉の材質について法令では指定がありませんが、ふすまや障子などの燃えやすい材質は適さないでしょう。適切な区画を設けるためには、建物の構造を正確に理解し必要な改修を行うことが求められます。準耐火建築物が多い一般住宅の3階建てでは竪穴区画がないことが多く、設置できるか専門家への確認が必要です。
4. 3階に居室がなければ竪穴区画は免除される
建築基準法によれば、地階または3階以上に居室が設けられていない場合、竪穴区画の設置は原則として不要です。居室を1階または2階に限定することで、安全基準を満たしつつ竪穴区画の設置要件を免除される可能性があります。
建物の構造が原因で竪穴区画の設置が難しい方は、居室の階層を変更することで3階建て住宅での民泊営業の可能性があります。建物の構造や法的要件の確認が必要なので建築士など専門家と相談し、建物の安全性や居室の階層を検討しましょう。
3階建て戸建てで民泊事業を開始する手続き
民泊事業を始める方は、根拠となる法令の手続きが主に3つあります。
- 住宅宿泊事業法の届出(民泊新法)
- 旅館業法の許可
- 特区民泊の認定
それぞれの手続きについて、要件と特徴を解説します。これから民泊事業を始める方は、ぜひ参考にしてみてください。
1. 住宅宿泊事業法の届出(民泊新法)
概要 | 平成30年6月に施行された新制度 |
主な要件 | 台所・浴室・便所・洗面の4つの設備要件 生活の本拠として使用するなどの居住要件 |
メリット | 届出で始めやすい |
デメリット | 消防安全基準に適合した設備の設置が必要 年間営業日数180日以内 |
平成30年6月に住宅宿泊事業法(通称:民泊新法)が施行され、民泊事業への参入が以前よりも手軽になりました。とくに3階建ての戸建て住宅を利用したいと考えている方の多くは、この法律に準拠した民泊事業をスタートします。
民泊新法で事業を開始するには、法的な要件を満たして必要書類を届出します。届出制度は不備がなければ事業を開始できるため、旅館業法に基づく許可申請と比較して行政の審査がなく手続きが簡易です。要件を満たせば比較的短期間で事業に参入できるため、戸建て住宅で民泊を検討している方にとっては始めやすい新たな制度です。
2. 旅館業法の許可
概要 | 一般的なホテルや旅館と同様の許可 |
主な要件 | 設置場所が適切あること 設備や構造が基準に適合していること |
メリット | 営業日数の制限なし |
デメリット | 厳格な要件で許可を取得するハードルが高い |
旅館業法の許可は一般的なホテルや旅館だけでなく、民泊運営で必要とされるケースがあります。3階建ての住宅で旅館業法の許可を取ることは可能ですが、ハードルが高いです。竪穴区画や消防設備の設置が必要であり、建物の構造を確認してから適法となる工事をしなくてはいけません。洗面所やトイレなど衛生面に関する設備要件も厳しくなります。民泊新法と比べて、法的な要件も申請手続きも複雑で時間がかかるでしょう。
旅館業法の許可は、民泊新法のような営業日数に関する制限はありません。しかし用途地域の制限により、事業が認められない場所も存在します。許可要件が民泊新法より厳しい旅館業法ですが、営業日数の制限がないことから収益性を重視する方にとっては魅力ある営業ができる手続きです。
3. 特区民泊の認定
概要 | 特定の地域で外国人観光客を対象とした民泊サービスを提供する事業者に向けた制度 |
主な要件 | 指定地域のみで営業可 最低宿泊日数の制限 |
メリット | 旅館業法の適用が除外される |
デメリット | 対象エリアでしか利用できない制度 |
特区民泊は、特定の地域で外国人観光客を対象とした民泊サービスを提供する事業者に向けた制度です。この制度を利用することで旅館業法の適用が除外され、より柔軟に民泊事業を行うことができます。
特区民泊の最大の特徴は、外国人観光客をメインの対象としている点です。日本を訪れる外国人観光客の増加に伴い、宿泊施設の需要に応えるために設けられました。特区民泊を行うためには、指定された特区内に対象建物がなければいけません。年間営業日数の制限はありませんが、最低宿泊日数2泊3日以上の滞在が条件となっています。
3階建ての住宅でも対象エリアであれば手続き可能です。対象エリアは非常に限定されているため、自分の物件が対象エリア内にあるかどうか、その他の制限条件について詳しく調べることが重要です。一軒家民泊の許可を受ける方法について詳しく知りたい方は、関連記事「【必見】一軒家民泊の許可を受ける方法を3つの法律別に解説【要件や申請書類を紹介】」をあわせてご確認ください。
3階建て戸建てにも適用される一般的な民泊の要件
3階建て戸建てで民泊事業を始める場合、建物の要件は「設備要件」と「居住要件」を満たす必要があります。設備要件は、以下の4つの設備が必要です。
- 台所
- 浴室
- 便所
- 洗面設備
これらの設備は必ずしも独立している必要はなく、1つの設備に複数の機能があるユニットバスなども認められます。
居住要件は、以下の3つのいずれかに該当することが必要です。
- 現に人の生活の本拠として使用されている家屋
- 入居者の募集が行われている家屋
- 随時その所有者、賃借人又は転借人の居住の用に供されている家屋
随時の利用でも該当するため、相続で所有した空き家や年数回利用する別荘なども対象となります。
民泊の要件以外にも注意しなければならないことは、営業日数の制限です。民泊新法では、「人を宿泊させる日数が1年間で180日を超えない」と定義されています。また「民泊で利用する居室の数が5を超える場合」と「オーナーが不在の物件で民泊運営を行う場合」は住宅宿泊管理業者への委託が必要です。
3階建て戸建て住宅を民泊として運営する際には、これらの要件を十分に理解し法令遵守が求められます。
3階建て住宅での民泊の注意点
始めやすくなった3階建て住宅での民泊運営ですが、以下の特有の注意点が存在します。
- 居住部分へのプライバシーのリスク
- 違法な民泊営業にならないように法令を遵守する
- 消防設備や竪穴区画の設置費用を確認する
この注意点を理解し適切に対応することで、未然にトラブルを防げます。ここでは、民泊運営における注意点を具体的に解説します。
1. 居住部分へのプライバシーのリスク
観光庁の資料によると、一戸建ての民泊は75.1%が家主居住型です。家主居住型ではとくに、プライバシーのリスクについて考慮しましょう。夜遅くの生活音や共用部分の使い方など、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。
3階建ての場合においては宿泊客と居住部分が別階層だとしても、家主の居住空間に侵入することがないように対策します。たとえば、宿泊用と居住用のエリアを鍵付きの扉で分離するなどです。宿泊客に対しては、居住部分へ入らないようルールを明確に伝えます。
居住者と宿泊客が同じ空間を共有する居住型民泊では、プライバシーの保護が特に重要です。宿泊客とのトラブルを未然に防ぐために、十分な対策を行いましょう。
参照元:観光庁「住宅宿泊事業の実態調査」
2. 違法な民泊営業にならないように法令を遵守する
3階建て住宅を民泊として運営する際、2階建ての建物に比べて適用される法令の要件が厳しくなります。火災安全規制や建築基準法など、さまざまな法令の適用を受けます。これらの法令は、安全性を確保するために設けられており、特に高層の建物ではその要件が厳しく設定されていることが一般的です。
民泊新法の施行に合わせて旅館業法が改正され、どちらの法律も違反した際の罰則の上限が100万円になりました。無許可での民泊運営を抑制し、安全で快適な宿泊環境を提供することが目的です。適法に民泊事業を運営するためには、法令の理解と遵守が不可欠です。
民泊に関する法令を確認するには、建築士や行政書士などの専門家に相談することをお勧めします。最新の法令や規制に精通しており、適切なアドバイスをしてくれます。
3. 消防設備や竪穴区画の設置費用を確認する
3階建ての戸建ては、民泊運営するために消防設備や竪穴区画などの設置費用の見積もりを事前に確認しましょう。
3階建ての建物は、消防設備として以下の設置が義務付けられています。
- 自動火災報知機(延べ床面積が300㎡以下は特小自火報を設置可能)
- 消化器
- 誘導灯
消化器は家庭用ではなく、業務用を設置しなくてはいけません。誘導灯は、避難経路が簡明で避難経路図を掲示することで、設置が免除される場合があります。
準耐火建築物であれば、竪穴区画の設置も必要です。3階建て住宅では竪穴区画が設置されていないケースが多く、200~500万円程度の施工費用がかかる場合があります。設置するべき具体的な設備は建物の構造や規模によって異なるため、事前に専門家と確認が必要です。
消防設備や竪穴区画は、火災による被害を最小限にする目的で設置される設備です。民泊営業を検討している3階建ての戸建てで、どの程度の費用がかかるのかを事前に把握しておきましょう。民泊の消防法上必要な設備について詳しく知りたい方は、関連記事「【保存版】民泊の消防法上必要な設備を建物種類別に紹介【費用や手続きを解説】」をあわせてご確認ください。
3階建て住宅で民泊を始めるには竪穴区画の要件をチェックしよう
新法により3階建て住宅で民泊事業を始めやすくなりましたが、竪穴区画などの特有の要件に注意が必要です。また民泊事業の要件には、設備要件や居住要件だけでなく、営業日数などの建物以外の条件にも注意しましょう。事前にリスクを把握し適切な対応策を講じることで、トラブルを未然に防ぎ安心して民泊事業を運営できます。
最新の情報や民泊の事例は、専門家やコミュニティで相談してみましょう。「民泊総合研究所」は、すでに民泊運営している方を中心としたコミュニティです。最新の情報交換や物件情報をいち早くシェアしていますので、これから民泊事業を始めようと思っている方はお気軽にお問い合わせください。
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