「簡易宿所と民泊って何が違うの?」
「一般住宅を使った民泊でも、簡易宿所営業の許可はとれるのかな?」
「簡易宿所は他の民泊運営方法に比べて、どんなメリットがあるのか知りたい」
一般住宅を使った宿泊事業である民泊は、複数の法律によって条件や規制が設けられています。簡易宿所は、旅館業法に基づいた宿泊事業に位置づけられます。しかし、簡易宿所と民泊の違いがよく理解できないという方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、簡易宿所について以下の内容を解説します。
- 民泊運営の3つの種類
- 簡易宿所での民泊運営がおすすめなケース
- 簡易宿所で民泊を行うための施設要件
- 簡易宿所による民泊の許可申請の流れ
簡易宿泊所での民泊運営が理解できる内容になっているので、ぜひ最後までお読みください。
簡易宿所は民泊の運営形態の1つ
簡易宿所とは、一般住宅を使った民泊運営の1つの形態です。民泊には、以下の3つの法律に基づいた形態があります。
- 旅館業法
- 住宅宿泊事業法(民泊新法)
- 国家戦略特区法(特区民泊)
簡易宿所は、旅館業法に基づいた宿泊事業に位置づけられます。3つの法律では、それぞれ民泊運営に関する条件や規制が異なります。民泊運営を始める際には、自身の民泊の立地や営業方法に適した法律の許可を取ると良いでしょう。
民泊運営の3つの種類
こちらでは、民泊運営を規制する3つの法律のそれぞれの特徴を解説します。以下の表は、3つの法律の特徴の一覧です。
旅館業法 |
民泊新法 |
国家戦略特区法 |
|
許認可 | 許可 | 届出 | 届出 |
営業日数 | 制限無し | 180日以内/年 | 制限なし |
宿泊日数 | 制限なし | 制限なし | 2泊3日以上 |
フロント
設置義務 |
なし | なし | なし |
客室面積 | 3.3㎡/人 | 3.3㎡/人 | 25㎡以上 |
消防設備 | 必須 | 家主居住型の場合緩和措置あり | 必須 |
不在時の
管理委託 |
なし | あり | なし |
それぞれの法律について詳しく見ていきましょう。
1. 旅館業法(簡易宿所)
旅館業とは「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」のことです。旅館業法による宿泊事業は、以下の4つの種類に分かれています。
- ホテル営業
- 旅館営業
- 簡易宿所営業
- 下宿営業
ホテル及び旅館営業は、個室の客室を設けて宿泊させる営業形態です。一方、簡易宿所は「宿泊する場所を多数人で共用する」営業を指します。具体的には民泊だけでなく、山小屋やカプセルホテルなどが簡易宿所に該当します。
下宿営業は、1ヶ月以上の期間を単位として宿泊させる営業のことです。簡易宿所は、複数ある旅館業法に基づく宿泊形態の1つであることを理解しておきましょう。
旅館業法について詳しく知りたい方は、関連記事「【徹底比較】民泊新法(住宅宿泊事業法)と旅館業法の違い7選!おすすめな人の特徴を紹介」をあわせてご確認ください。
2. 民泊新法
民泊新法は、2018年に施行された比較的新しい法律です。旅館業法の許可を得ていない民泊が増えたことから、規制を明確にするために制定されました。旅館業法とは異なり「住宅専用地域」での営業が認められていることが、大きな特徴です。
一方で「年間の営業日数が180日に限定されていること」「家主不在型の場合は管理委託が義務であること」がデメリットとして挙げられます。また、都道府県の条例によって営業エリアが制限されるなど、追加の規制が設けられている場合があるため注意が必要です。
3. 国家戦略特区法
国家戦略特区法に基づく民泊は一般に「特区民泊」と言われます。特区民泊は「国家戦略特別地域」として国が定めた14地域でのみ営業ができる形態です。
民泊新法のように、営業日数の制限は課されていませんが、最低宿泊日数が2泊3日と定められています。そのため、1泊2日などの短期の旅行客の予約を受け付けられないデメリットがあります。
特区民泊について詳しく知りたい方は、関連記事「【簡単】特区民泊とは旅館業法の除外特例!6つの特徴と認定地域一覧・設備要件を解説」をあわせてご確認ください。
簡易宿所での民泊運営がおすすめな3つのケース
民泊運営を検討されている方の中には、自身がどの法律に基づいた民泊にすべきか悩んでいる方は多いでしょう。こちらでは、簡易宿所での運営がおすすめの3つのケースを解説します。
- 年間180日を超えて営業をしたい
- 民泊の立地が国家戦略特別地域ではない
- 住宅専用地域でない又は条例で営業が規制されている
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 年間180日を超えて営業をしたい
年間180日を超えて営業をしたい場合は、簡易宿所での許可を検討してみると良いでしょう。民泊新法の場合、年間180日を超えて営業ができません。1年の半分が営業できないため「中長期滞在施設での貸出」や「レンタルスペース」など他の用途での活用を考えないと収益を得ることが困難です。
宿泊事業だけで運営をしたいと考えている方にとっては、営業日数の制限のない簡易宿所が適していると言えます。
民泊の180日ルールについて詳しく知りたい方は、関連記事「【解決】民泊新法180日ルールのポイント3選!利益を上げる方法を解説」をあわせてご確認ください。
2. 民泊の立地が国家戦略特別地域ではない
民泊の立地が国家戦略特別地域でない場合は、簡易宿所を検討してみると良いでしょう。特区民泊は、営業日数制限がありません。ただし、特区民泊は国家戦略特別地域の14地域のみにしか適用されないため、民泊が所在する自治体が該当しているのか確認が必要です。国家戦略特別地域の一覧は、以下のとおりです。
- 秋田県(仙北市)
- 新潟県(新潟市)
- 宮城県(仙台市)
- 東京都(大田区)
- 神奈川県
- 千葉県(成田市・千葉市)
- 愛知県
- 大阪府
- 京都府
- 兵庫県(養父市)
- 広島県
- 愛媛県(今治市)
- 福岡県(福岡市・北九州市)
- 沖縄県
以上の地域に該当しない場合は、簡易宿所での許可を検討してみてはいかがでしょうか。
3. 住宅専用地域でない又は条例で営業が規制されている
民泊新法の大きな特徴は「住宅専用地域」で営業できることです。自身の民泊が「住宅専用地域」ではない場合は、民泊新法のメリットが活かせません。また、条例で「住宅専用地域」での民泊営業が制限されている自治体の場合も同様です。
自身の民泊が住宅専用地域ではない又は営業ができない自治体の場合は、営業日数の制限がない簡易宿所を検討すると良いでしょう。
簡易宿所で民泊を行うための5つの施設要件
簡易宿所営業を始めるには、複数の施設要件を満たす必要があります。必要な設備がない場合は、許可申請前に設置が必要です。こちらでは、簡易宿所営業に必要な施設要件を5つ解説します。
- 客室
- 入浴施設
- フロント機能
- 消防設備
- 便所・洗面設備
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 客室
客室は「1人用の個室」と「2人以上で共用する部屋」のどちらの配置も可能です。ただし、2人以上で共用する部屋が、総客室数の2分の1以上である必要があります。
客室の面積基準は、原則「客室の延べ床面積が33㎡以上」です。ただし、一度の宿泊できる人数が10人未満の場合、3.3㎡に宿泊者数を乗じた面積であれば、基準以下であっても許可されます。
例えば、宿泊上限が8人の施設の場合「3.3㎡×8人」で、26.4㎡の面積であっても問題はありません。また施設の定員は、以下のとおり定められています。
- 寝台(ベッド)使用:寝室3.0㎡以上/人
- 和式寝具使用:寝室2.5㎡以上/人
- 階層式寝台(2段ベッド)使用:2.25㎡以上/人
階層式寝台は2段までで、上段と下段の間隔は概ね1m以上が基準です。客室は2人以上共用の部屋だけでなく1人部屋の設置ができるなど、柔軟な対応が可能です。施設の延べ床面積を計算した上で、定員数を決めると良いでしょう。
2. 入浴施設
入浴施設は近隣に公衆浴場があり、宿泊客の需要が満たせると認められた場合には不要です。入浴施設を設ける場合は、宿泊者数に合わせて適当な規模の設備を準備する必要があります。目安として10人定員の施設では、以下の設備を備えた1人用以上の入浴設備を準備すると良いでしょう。
- ユニットバス
- ユニットシャワー
- 脱衣室
- 洗面設備
入浴設備の規模は、自治体によってガイドラインが設けられている場合があります。詳しくは、民泊運営を行う地域の自治体に確認すると良いでしょう。
3. フロント機能
簡易宿所では、フロントの設置は不要です。ただし、フロントに代わり以下の2つの機能を準備する必要があります。
- チェックイン・鍵の引き渡し
- 緊急時に迅速に対応できる体制
チェックインや鍵の引き渡しは、ICT機器を使った無人での対応が認められています。ただし無人であっても、緊急時に宿泊客が管理者に連絡を取れる体制をとらなければなりません。具体的には「緊急連絡先の貼り出し」「緊急時に現場に行ける管理体制」などが必要です。また、自治体の条例で必要な機能が別に定めらている場合があるため、事前に確認しておきましょう。
4. 消防設備
簡易宿所は防火対象物「旅館等」に該当し、必要な消防設備が消防法で定められています。簡易宿所に必要な消防設備は、以下の表のとおりです。
設備 |
内容 |
消火器 | 台所に設置(延床面積が150㎡以上の場合は居室や廊下などにも設置が必要) |
火災報知設備 | 自動火災報知設備 |
誘導灯 | 出入り口や通路に設置 |
その他 | カーテン、じゅうたん等は防炎物品を使用、宿泊室に避難経路図を掲出 |
火災報知設備は、配線工事が不要な「特定小規模施設用自動火災報知設備」であっても認められる場合があります。必要な設備は、事前に消防署に確認しておくと良いでしょう。
民泊の消防設備について詳しく知りたい方は、関連記事「【保存版】民泊の消防法上必要な設備を建物種類別に紹介【費用や手続きを解説】」をあわせてご確認ください。
5. 便所・洗面設備
便所と洗面設備は、宿泊客の需要を満たせる数を設置しなければなりません。目安としては、5名程度につきそれぞれ1箇所程度必要です。増設には多額の費用がかかるため、事前に自治体に必要数を確認しましょう。
簡易宿所による民泊の許可申請の流れ7ステップ
簡易宿所の許可は、都道府県の保健所及び消防署の検査を受けた上で申請を行います。こちらでは、簡易宿所の許可申請の流れを以下の7ステップで解説します。
- 自治体への事前相談
- 消防署への事前相談
- 必要な設備等の準備
- 立入検査
- 消防法令適合通知書の交付申請
- 旅館業許可の交付申請
- 防火対象物使用開始届の提出
一つひとつ見ていきましょう。
1. 保健所(保健センター)への事前相談
まず初めに、民泊を運営する地域の保健所(保健センター)に事前相談に行きましょう。保健所は、都道府県ごとに複数設置されています。相談にあたっては、施設の図面(平面図、立面図)や周辺地図の準備が必要です。
平面図及び立面図は、建築士事務所などに作成を依頼できます。事前相談では、以下の点で簡易宿所営業が可能であるか確認してもらいましょう。
- 立地場所
- 建物の構造・設備
- 申請者の適格性
立地場所は「都市計画法」と「自治体の条例」から、旅館営業が可能であるか確認します。建物の構造・設備については、計画している設備で許可を得られるか確認が必要です。自身の設備計画を確認してもらっておくことで、手戻りがなくなります。
2. 消防署への事前相談
必要な消防設備は、管轄の消防署に確認を行います。消防署に相談に行く際には、以下の書類を準備しておきましょう。
- 立面図
- 平面図
- 消防用設備の図面
立面図及び平面図は、自治体の事前相談の際に準備した書類で問題ありません。平面図に消防用設備の設置計画を記載しておくと、相談がスムーズに進みます。
3. 必要な設備等の準備
保健所及び消防署で必要な設備が確認できたら、設備の準備に入りましょう。誘導灯などの配線工事は、電気工事士の資格がある業者に依頼する必要があります。消防設備の工事をする際には「工事整備対象設備等着工届出書」を消防署に提出し、工事が完了したら「消防用設備等設置届出書」を出しましょう。
4. 立入検査
設備の設置が完了したら、保健所と消防署による立入検査が必要です。立入検査では必要な設備が揃っているか、また正常に動作するかの確認が行われます。それぞれ立入検査の依頼を電話等で行い、申請書類が必要な場合は作成して提出します。立入検査には、民泊の運営者自身の立ち会いが必要です。
5.消防法令適合通知書の交付申請
消防署の立入検査が完了したら「消防法令適合通知書」の交付申請を行いましょう。「消防法令適合通知書」は、旅館業の許可申請を行う際に必要な書類です。「消防法令適合通知書」を提出する際には、消防署に必要な添付書類を確認しておきましょう。また、立面図や平面図などの提出を求められる場合があります。
6. 旅館業許可の交付申請
旅館業の許可申請は、都道府県の保健所が窓口です。許可申請書は、保健所で書式を受け取れます。また許可申請を行う際には、手数料が必要です。自治体によって金額が異なりますが、16,000円程度を収入証紙で納めます。
7. 防火対象物使用開始届の提出
保健所からの営業許可は、申請から15日程度で決定します。営業を始める前には、消防署に「防火対象物使用開始届出書」の提出が必要です。
ここまでで、許可申請の手続きは完了です。必要書類は、保健所及び消防署に確認しながら進めると良いでしょう。
民泊許可は立地や運営を考えて適切な方法を選びましょう
簡易宿所は、旅館業法に基づいた民泊運営の1つの形態です。民泊は旅館業法のほか、民泊新法、国家戦略特区法に基づいた許可での運営ができます。
簡易宿所は、民泊新法と比較すると、営業日数制限がないなど、自由度の高い営業ができることがメリットです。一方で、簡易宿所は住宅専用地域での営業はできない点がデメリットと言えます。民泊運営を始める際には、運営形態や立地によって適した法律に基づいた許可を取りましょう。
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