「民泊を始めたいけど旅館を開くのと同じ手続きが必要なの?」
「同じ民泊なのに、なぜ民泊新法と旅館業法で制度が分かれているの?」
「旅館業法の申請は難易度が高いと聞いて不安」
民泊に興味があるものの「そもそも旅館業との違いがわからない」という方は多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、以下の内容を初心者にもわかりやすく解説します。
実は、民泊サービスを行う手段は1つだけではありません。この記事を読み終えるころには、複数ある手段の中から自分に合った営業方法を判断できるようになっているでしょう。これから民泊を始めたいと思っている方は必見の内容なので、ぜひ最後までお読みください。
民泊と旅館業の違い
この章では「民泊と旅館業って何が違うの?」という疑問に対して、以下の内容を解説します。
それぞれの意味の違いを押さえておきましょう。
1. 旅館業とは
法律上、旅館業は「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されており、以下の3つに分類されています。
上記のうち、旅館業法上の民泊は「簡易宿所営業」に該当します。旅館業を営むためには、法律で定められた要件をクリアし、都道府県から許可を得なければいけません。違反した場合は、6ヶ月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます。
簡易宿所について詳しく知りたい方は、関連記事「【注意】簡易宿所は民泊の運営形態の1つ!おすすめな3つのケースと申請の流れを解説」をあわせてご確認ください。
2. 民泊とは
民泊とは、住宅のすべてまたは一部を活用して行う宿泊サービスです。旅館業の定義にも当てはまるため「違いがわからない」と混乱される方が多いのも無理はありません。実は民泊運営に適用される法律には以下の3種類があり、どれを選ぶかによって開業の手続きに違いが出てくるのです。
民泊を行う手段の1つに「旅館業」があるという位置づけになります。なお、国家戦略特別区域法における営業は「特区民泊」と呼ばれています。特区民泊は、ごく限られた地域でのみ可能となる特殊な形態です。
民泊新法(住宅宿泊事業法)の概要を解説
民泊新法は、2018年に施行されたばかりの法律で、正式には「住宅宿泊事業法」という名称です。民泊新法ができたことによって、旅館業法よりも緩和された条件で民泊を開業できるようになりました。
民泊新法が整備された背景には、無許可で営業する「違法民泊」の横行があります。明確なルールがないまま運営が行われていたため、ゴミ出しや騒音などのトラブルや「ホテルや旅館から利用客が流れて営業妨害につながる」などの被害が問題となっていました。
民泊新法は、違法営業が引き起こした問題を解消すると共に、取り締まりを強化するために誕生したのです。開業にあたってクリアすべき要件が緩和されている一方で、ホテルや旅館と明確に住み分けを行うため、営業に制限が設けられている点が特徴です。
民泊新法と旅館業法の違い7選
民泊を始めるためには、国家戦略特別区域法を利用する場合を除き、民泊新法か旅館業法に基づいて手続きを行う必要があります。この章では、両者の違いを以下の7つの項目にわけてわかりやすく紹介します。
それでは、それぞれの違いを詳しくみていきましょう。
1. 営業日数に関する制限
民泊新法と旅館業法で大きく異なる点は、年間で営業できる日数の違いです。営業日数は収益に直結するポイントのため、違いをしっかりと押さえておきましょう。
民泊新法 | 旅館業法(簡易宿所) | |
年間営業日数の制限 | 年間180日以内 | 制限なし |
営業日数等の定期報告 | 必要(2ヶ月ごと) | 不要 |
旅館業法では、年間を通して日数の制限なく営業できます。一方で、民泊新法では年間180日の営業制限を設けている点が大きな違いです。1年で考えると、およそ半分しか営業できない計算になりますね。
また、物件の所在地を管轄する自治体によっては「上乗せ条例」として、民泊新法にプラスして独自のルールを設定している場合があります。営業日数に関しては、平日の稼働を禁止するなどの制限がかけられるケースがあるので注意しましょう。
なお民泊新法では、2ヶ月ごとに専用サイト「民泊制度運営システム」からの定期報告が義務づけられています。
民泊新法の180日ルールについて詳しく知りたい方は、関連記事「【解決】民泊新法180日ルールのポイント3選!利益を上げる方法を解説」をあわせてご確認ください。
2. 開業可能な用途地域
「用途地域」とは、都市計画法によって定められた「土地の使い道」を指します。すべての土地はエリアごとに「商業地域」や「住居専用地域」「工場専用地域」といった計13種類の用途地域に分類されており、使い道が制限されています。
民泊の運営が可能な地域は、民泊新法と旅館業法でそれぞれ以下のとおりです。
民泊新法 | 旅館業法(簡易宿所) | |
開業可能な用途地域 | 工業専用地域以外 | ・第一種住居地域・第二種住居地域・準住居地域・近隣商業地域・商業地域・準工業地域 |
民泊新法では、住居専用地域を含むほぼすべてのエリアで営業が可能です。一方で、旅館業法に基づいて民泊を行う場合、開業可能エリアは上記の6つに制限されます。用途地域の制限は、物件探しの上で重要なポイントとなるでしょう。
3. 建築基準法上の主要用途
建築基準法によって、すべての建物には「主要用途」が設定されています。民泊新法と旅館業法で用いる建物の主要用途は、それぞれ以下のとおりです。
民泊新法 | 旅館業法(簡易宿所) | |
建築基準法上の主要用途 | ・一戸建ての住宅・共同住宅・寄宿舎・長屋 | ホテルまたは旅館 |
旅館業として民泊を始める際、建物の主要用途が「ホテルまたは旅館」以外になっている場合は変更が必要です。ホテルまたは旅館へ用途変更するためには、以下の条件をクリアしなければいけません。
例外として、延べ面積200㎡は用途変更の確認申請が不要とされています。以前は延べ面積100㎡まででしたが、2019年に建築基準法が改正されて条件が緩和されました。ただし、確認申請が不要の場合でも、構造設備や消防法などの条件はクリアしておく必要があります。誤解されやすい点なので注意しましょう。
(※)建物の周囲約100mに教育・福祉施設や公園などがある場合は、当該施設の管理者に意見を求める必要があります。管理者に「環境を害される恐れがある」と判断された場合は、営業許可が下りません。
4. 構造設備基準
民泊新法と旅館業法では、建物の構造や設備についてルールが定められています。それぞれの要件の違いは、以下のとおりです。
民泊新法 | 旅館業法(簡易宿所) | |
客室床面積 | 3.3㎡/人 | 33㎡以上(宿泊者が10名未満の場合は1人あたり3.3㎡以上) |
フロント | 不要 | 設置が望ましい |
入浴設備 | 必要(シャワー室のみ可) | 必要(シャワー室のみ可)※例外あり |
トイレ・洗面 | 必要 | 必要 |
調理台(台所) | 必要 | 設置要件なし |
以前は、旅館業法上の簡易宿所を運営する際にフロント(玄関帳場)の設置が義務づけられていました。現行の法律では緩和されているものの、自治体のルールで義務づけている場合は従う必要があるので注意しましょう。
また、簡易宿所の場合は近隣に大衆浴場などの施設があれば、入浴設備の設置が免除されるケースもあります。
5. 消防用設備等の設置
宿泊施設では、消防法によって特定の設備の設置が義務づけられており、民泊も例外ではありません。消防用設備の設置要件には、以下のような違いがあります。
民泊新法 | 旅館業法(簡易宿所) | |
消防用設備等の設置 | 必要(※例外あり) | 必要 |
具体的には、必要に応じて以下のような設備を設置しなければいけません。
設置の必要性は、一戸建てか共同住宅かでも異なります。また例外として、家主同居で宿泊室の面積が小さい場合は免除される設備もあります。詳しくは消防庁の「民泊において消防法令上求められる対応等に係るリーフレット(令和4年3月時点版) 」が参考になるでしょう。
民泊に必要な消防設備について詳しく知りたい方は、関連記事「【保存版】民泊の消防法上必要な設備を建物種類別に紹介【費用や手続きを解説】」をあわせてご確認ください。
6. 宿泊者への対応
宿泊者への対応には、以下のような違いがあります。
民泊新法 | 旅館業法(簡易宿所) | |
宿泊者名簿の作成・保管 | 必要 | |
対応言語 | 宿泊予約時点で対応可能と提示した言語 | 規定なし |
クレーム対応者 | ・事業主・家主(同居型の場合) | 事業主 |
不在時の管理業者への委託義務 | あり | なし |
大きな違いとして挙げられるのが、オーナー不在時の対応です。民泊新法では宿泊者へ適切な対応を行うため、家主不在型の運営をする場合に管理業者への委託が義務づけられています。違反した場合は、50万円以下の罰金刑に処されます。
ただし、家主が同居していたり敷地内に隣接して住んでいたりする場合であれば、委託の必要はありません。
7. 申請関係
申請手続きに関する違いは、以下のとおりです。
民泊新法 | 旅館業法(簡易宿所) | |
許認可 | 届出 | 許可 |
オンライン申請 | 〇 | × |
手数料 | 無料 | 20,000円程度 |
民泊新法では、要件を満たした上で各自治体または保健所に「届出」を行えば開業できます。申請書類の提出は、オンライン上で完結可能です。
一方で旅館業は、申請を行った後に「許可」が下りなければ開業できない点が異なります。申請書類は自治体によって一部オンライン提出が可能ですが、基本的には郵送や窓口などの手段で手続きを行うことになるでしょう。
なお、申請にかかる手数料は自治体ごとに異なるので注意してください。
民泊新法と旅館業法のメリット・デメリット
民泊新法と旅館業法のメリット・デメリットは以下のとおりです。
民泊新法 | 旅館業法 | |
メリット | ・住宅専用地域で営業できる・旅館業法と比べると開業のハードルが低い | ・営業日数の制限がない・収益化しやすい |
デメリット | ・年間180日の営業制限がある・法改正の影響を受けやすい | ・開業のハードルが高い・初期費用が高額 |
旅館業法上の許可を得て民泊を行う場合、クリアすべき要件が厳しい点がネックになるでしょう。しかし、許可を得られれば日数の制限なく営業できる点は大きな魅力です。収益化を目的とする上で、日数制限がないことは最大のメリットと言えます。
民泊新法での運営がおすすめな人【低リスクで始めたい】
以下に当てはまる方は、民泊新法での運営が向いています。
民泊新法では、1年の約半分しか営業できません。営業日数は売上に直結するため、収益化を重視する場合は不向きでしょう。
一方で、マンションの一室からスタートできる手軽さがあります。設備条件をクリアするための大がかりな工事が必要なケースが少なく、初期費用を抑えられる点が魅力です。
そのため「副業として低リスクで始めたい」「所有する物件の空き部屋を有効活用したい」と考えている方におすすめできます。また、外国人観光客の利用率が高いため、異文化交流などの体験を重視している方にも向いているでしょう。
旅館業法での民泊運営がおすすめな人【180日以上営業したい】
以下に当てはまる方は、旅館業法での民泊運営が向いています。
一般的に、簡易宿所の開業にあたっては民泊新法の場合よりも多くの初期費用がかかります。なぜなら、要件をクリアするために大がかりな工事が必要だったり、物件の取得やリフォームで1,000万円近くの費用がかかったりするからです。
初期費用に投資できる資金力があり、収益性を重視するなら、営業日数制限のない旅館業法での民泊運営がおすすめです。ただし、設備工事やリフォームに加えて、事前相談や立入検査などでお金と時間がかかる点に注意しましょう。
なお、開業準備や運営を代行してくれる業者があるため、手続きの難易度や時間確保の問題は、ある程度お金で解決できます。
民泊新法と旅館業法の違いを知って自分に合った制度を利用しよう
民泊を行うためには、以下のいずれかの営業許可を取る必要があります。
国家戦略特別区域法における民泊が行えるのはごく限定された地域のみであるため、基本的には民泊新法か旅館業法のどちらかを選択することになるでしょう。
異なる制度ができた背景には、旅館業法の許可を取得するハードルの高さから無許可で営業する「違法民泊」が横行した問題があります。違法民泊がさまざまなトラブルを引き起こしたため、対応措置として新たに民泊新法が整備されました。
そのため、民泊新法は旅館業法に比べて参入障壁が低いのが特徴です。一方で、ホテルや旅館と明確に住み分けを行うため、営業日数などの制限が設けられている点を理解しておかなければいけません。民泊新法と旅館業法の違いを知り、自分に合った制度を利用しましょう。
コメント